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名古屋高等裁判所 昭和22年(ナ)46号 判決

愛知縣碧海郡富士松村大字井ケ谷字下瀨六十三番地

原告

〓藤源一郞

右訴訟代理人辯護士

加藤高允

名古屋市中區南外堀町六丁目一番地

愛知縣廳内

被告

愛知縣選擧管理委員会

右代表者委員長

加藤大謳

愛知縣碧海郡富士松村大字西境字前山二百四十二番地

被告参加人

石川建藏

同被告参加人

加藤時利

右兩名訴訟代理人辯護士

森田友五郞

右當事者間の昭和二十二年(ナ)第四六号当選の効力に関する訴願裁決に対する訴訟事件につき當裁判所は次の如く判決する。

主文

昭和二十二年四月三十日愛知縣碧海郡富士松村において執行せられた同村會議員選擧に関し、喚告が同年七月十二日になした裁決中〓藤順一の當選は無効とし石川建藏を當選人とするよう命する旨の部分は、これを取消す。

被告は富士松村選擧理管委員会に対し右兩名の中より当選人を定むるため地方自治法第五十五條第二項による手続をなずことを命ずべし。

訴訟費用中原告と被告との間に生じたものは被告の負担とし原告と参加人との間に生じたものは参加人の負擔とする。

事実

原告訴訟代理人は主文第一項と同趣旨並に訴訟費用は被告の負擔とするという判決を求め請求の原因として昭和二十三年四月三十日愛知縣碧海郡富士松村で執行せられた同村の村会議員選擧は翌五月一日開票の結果、〓藤順一、深谷音吉は各百四十三票で当選石川建藏は百四十二票で落選と決定されたところ、選擧人の加藤時利が五月八日右決定に対し異議の申立をしたので同村選擧管理委員会において同月十三日再審査した結果、石川建藏の得票が一票增加し、〓藤順一、深谷音吉、石川建藏の各得票数は何れも百四十三票の同数となつたため、同日くじびきをして〓藤順一及び深谷音吉は当選、石川建藏は落選と決定した、しかるに前記加藤時利はこれを不服とし被告に対して訴願をしたので、被告は右選擧の投票についてさらに審査した結果、深谷音吉は百四十五票、石川建藏は百四十四票、〓藤順一は百四十三票となつたとして、七月十二日〓藤順一の当選を無効とし石川建藏を当選人とするよう命する旨の裁決をし同月二十四日これを告示した。

しかし被告が無効投票としたものの中シノノノ上(檢一)はシン一と讀み得られるからこれは〓藤順一に対する無効投票と認むべきであり、また、被告が石川建藏に対する無効投票と認めたケシ尻(檢二)なる票は候補者中に生駒憲之助なるものもあつて、何人に投票したるか不明であるから無効とすべきである、從つて深谷音吉の無効投票は百四十五票、〓藤順一は同百四十四票、石川建藏は同百四十三票であつて、被告のなした採決は不当であるからその取消を求めるため、同選擧の選擧人として本訴に及んだ次第である、と述べ、なお参加人の本件参加には異議がないと述べ、立証として甲第一(寫)二号證を提出し、檢證の結果及證人狩野桂次郞の証言を採用した。

被告は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするという判決を求め、答辯として、原告の主張の中、昭和二十二年四月三十日愛知縣碧海郡富士松村の村会議員の選擧において、開票の結果が原告の主張のようになり、異議の申立があり同村選擧管理委員会が再審査の結果原告主張のような結果となつたこと、これに對して〓藤時利か被告に訴願があり審査の結果、原告主張の始末となつたこと及び原告が右選擧の選擧人であることは認めるがその他は否認する、即ち問題のシノノノ上なる投票(檢一)は何人に投票したか確認し難いものであるのみならず紙型を使用したものであるから無効と認むべきであるし、ケシ尻(檢二)なる投票はケン三或はケン告と讀まれ、訴外石川建藏に対する無効投票と認むべきである、從つて無効投票は深谷音吉については百四十五票、石川建藏については百四十四票、〓藤順一については百四十三票である、と述べなほ参加については異議がないと述べ、立證として、檢証の結果及證人狩野桂次郞の証言を採用し、甲第一二号証の成立を認めた(甲第一号証については原本の存在も認めた)。

参加人兩名訴訟代理人は、参加人石川建藏は本件選擧の候補者であり加藤時利は同選擧人でありかつ訴訟であつて本訴の勝敗につき利害関係があるから被告を補助する爲め本件参加に及んだ次第であると述べ事實関係につき被告と同一の主張をなし、立証及び甲号証の認否も被告と同樣にした。

理由

愛知縣碧海郡富士松村選擧長の作つた富士松村会議員選擧選擧録(當裁判所が富士松村役場で檢証した書類)及び檢証の結果によると、昭和二十二年四月三十日行われた富士松村会議員選擧において、議員定数二十六名にたいして、鈴木平三外二十四名がそれぞれ法律上必要な無効投票数(最高二八七票最低一六〇票)を得て当選と決定されたことが認められその餘の二名の議席にたいして右選擧録によると候補者〓藤順一及び深谷音吉は各百四十三票で当選、石川建藏は百四十二票で落選と決定されたが選擧人加藤時利は同年五月八日異議申立をし、同村選擧委員会において同月十三日再審査の結果、右〓藤、深谷、石川の三者何れも百四十三票となり、くじで〓藤順一、深谷音吉が当選石川建藏が落選と決定せられたこと、これに対し前記加藤時利が被告委員会に訴願をし被告委員会が再審査の結果、同年七月十二日無効得票、深谷音吉百四十五票石川建藏百四十四票〓藤順一百四十三票となり、原告主張のような裁決をし同月二十四日それを告示したこと、及び原告が右選擧の選擧人であることは当事者間に爭のないところであつて、本訴が右告示後法定期間内の同年八月十八日に起されたことは記録によつて明かである。

そこで前記三名の得た投票について調べてみると、被告委員会において無効と決した〓藤順一の百四十三票深谷音吉の百四十五票及び石川建藏の百四十四票中後に説明する「檢二」の一票を除いた百四十三票は当裁判所の檢証の結果によつて有効と認められる。また被告委員会が無効投票と認めたものの中後に説明する「檢一」の一票を除いた他の投票が無効のものであることも当裁判所の檢証の結果によつて認められるのである。

進んで問題の一票、即ち被告委員会が無効と決定したが原告は〓藤順一に対する無効投票であるとするもので当裁判所の檢証調書作成に当つて「檢一」と符号をつけた一票について考えるに、檢証の結果によると、右投票はシノノ上のような記載があつて辛うじてシンの二字が判讀し得られるがその餘は何のことかわからない。ところが前にも引いた富士松村村会議員選擧録によると候補者中に〓藤新太郞というものがあり從つて右投票を以てたやすく〓藤順一に対する投票とは認めがたく、結局候補者の何人を記載したかを確認し得ないものとして無効とするのが相当であるといわねばならない。

つぎに、もう一つの問題の投票、即ち前同樣「檢二」と符号をつけた一票で被告委員会が石川建藏の無効投票と主張する投票について見るに、当裁判所の檢証の結果によれば、これにはケシ尻のような記載があり、ケンの二字は辛うじて讀み得られるが他は全然わからないので前記選擧録によると候補者中に、生駒憲之助というのがありこの票も候補者中のたれを記載したかを確認しがたく、無効の投票と断ずる外はない。

以上の通りで、結局、無効投票は深谷音吉については百四十五票〓藤順一、石川建藏については各百四十三票であるということに帰するから、深谷音吉は当選とすべきこと明かであるが、〓藤と石川の兩名についてはくじでどちらが当選人かを定めなければならないのであつて、〓藤順一が当選人とならないものでもない。從つて被告委員会が石川建藏百四十四票〓藤順一、百四十三票と認めて、〓藤順一の当選を無効とし石川建藏を当選人とするよう命する旨の裁決をしたのは不当であつて、この裁決はこれを取消すべく〓藤順一、石川建藏二人のうち、どちらを当選人とすべきかは地方自治法第五十五條第二項に從つて、くじで定めるべきものである。

よつて訴訟費用の負擔について民事訴訟法第八十九條九十四條を適用して主文の通り判決する次第である。

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